2012年2月11日

ペンギン男とノスフェラトゥ


 ティム・バートン監督、マイケル・キートン主演の「バットマン・リターンズ」(1992年)の話。
 ぼくが最も愛するバートン映画の一つ。そうして最も物悲しいバートン映画の一つだと思う。アメリカン・コミックでお馴染みのバットマンの映画化作品ではあるけれど、これは半ばバートンのプライベート・フィルムと呼べるだろう。彼の異形への愛というか、そういった趣味が思い切り炸裂してしまっている作品だ。前作「バットマン」(1989年)でメジャー・デビューを果たしたバートンだが、公開前後はその大きすぎるタイトルのために神経衰弱になって苦しんだという。続編「リターンズ」はまるでその反動でああいった具合になったように見える。
 名家の長男としてクリスマスに生まれたオズワルドは、その醜い容貌のために両親の手により下水道に捨てられる。下水道は閉鎖された動物園の「氷の世界」に繋がっており、 彼はそこに取り残されていたペンギン達と生きていくことになる。
かわいそうなフリークの物語は、バートンの描いた絵本「オイスター・ボーイの憂鬱な詩」に見られるスタイル。この本に「ジミー みにくいペンギンの子」というキャラクターが登場するのは偶然ではないはず。
 コンプレックスと孤独のために性格の歪んだペンギンをはじめ、地味なOLが発狂して変身するキャットウーマン、昼と夜の二重生活に頭を抱えるバットマン(ブルースがいつも眉間に皺を寄せてるのは偏頭痛持ちだから?)・・・近年見られるアメコミ映画とはまるで違うのがわかる。バートン・ファンタジーなんだと思う。
 監督の趣味が反映しているのは暗い色彩と、異形への愛だけではない。劇中には原作には登場しない、この映画オリジナルの悪役として「マックス・シュレック」という男が登場する。ゴッサムの実業家で、原発建設を進めようとしており、なによりセリーナ・カイルをビルから突き落としてキャットウーマンにしてしまった張本人。
 この「マックス・シュレック」という名前は、史上最古の吸血鬼映画「ノスフェラトゥ」の主演俳優の名前と同じ。ドイツ表現主義のサイレント映画へのオマージュだ。そういう見方をすると、ダニー・デヴィート演じるペンギン男の見た目も、なんだか「カリガリ博士」のように見えてくる。多分意識していると思う。
 初めてこの映画を観たのは小学生の頃だったけれど、今になってこうして発見があると楽しい。観るときによって違うものが見えて来るし、だからこそ良い映画は残るんだろうなと思う。