レア・セドゥがボンドガールをやるということでずっと楽しみだった007最新作「スペクター」。イラストの仕事の関係で試写を観させていただいたので、いちはやく感想をまとめてみた。
今作は過去作へのオマージュというか、ボンドの伝統をたくさん踏襲している原点回帰。「カジノ・ロワイヤル」ではまだ新任のスパイだったボンドが「慰めの報酬」「スカイフォール」を経てようやく完全な007として完成したところで挑むのが今作なわけで、少し回り道をしてから昔ながらのスタイルの007映画をつくったといった具合。でもその回り道(ダニエル・クレイグ主演の過去三作は今までの作品とは異なり、ボンドの内面を掘り下げるのがテーマのひとつだった)があったからこそ、「スペクター」のボンドには人間的な存在感と説得力があるし、クレイグ版のシリーズを観てきた観客にとってはボンドがめちゃくちゃ成長して洗練されていることがわかる。一連の作品はボンドが007になる物語であったのと同時に、ダニエル・クレイグがジェームズ・ボンドになるための作品だったとも言えるのだ。「カジノ・ロワイヤル」のときは初の金髪ボンドに昔からのファンが難色を示したとかいう話を聞いたけれど、3作もかけて彼がボンドになっていく経緯を丁寧に描いたのは大正解だったと思う。すっかりボンド役が馴染んだところで、さあショーン・コネリー時代の悪役を復活させ、昔ながらの007を描こうというのだから丁寧すぎる。「スカイフォール」でマニーペニーやM、Qなど昔のキャラクターが再び揃った瞬間から、宿敵スペクターの復活も約束されていたのだと思うと、壮大な007復活計画だなあと思う。
さて大好きなレア・セドゥだけれど、とってもかわいくて綺麗だった。少しエキゾチックな雰囲気も007の世界観にとても合っていたと思う。場面場面で着替える衣装も素敵でどれも似合っているし、着るものによって雰囲気ががらりと変わるのも魅力のひとつ。控えめな顔つきが、ニュートラルな魅力を持っているのかも。
拳銃を握る姿も画になっていたと思う。ぼくはレア・セドゥという女優を「ミッション・インポッシブル:ゴースト・プロトコル」で知ったわけだけれど、初めて観たのもやはり拳銃を構えた姿だったから(そのときは報酬はダイヤのみという殺し屋だった)、ボンドガールとして再びその姿が観られて大変うれしかった。そういえば彼女、「イングロリアス・バスターズ」に台詞のないちょい役で出ていて、そのときもクリストフ・ヴァルツと共演(同じ画面に映っていた程度だけれど)していたんだね。ちょい役すぎて忘れてた。
クリストフ・ヴァルツについては・・・悪役がとても似合うなあくらいの感想にしておく。
今作はMI6の面々にも活躍の場が与えられていて、新任のMであるレイフ・ファインズも、詳しくは書かないけれど新鮮なアクティブさを見せていて良かった。Mやマニーペニーはオフィスで高見の見物をしてなきゃダメ!というファンも当然いるだろうけれど、それはやはり現代的なアレンジとして受け入れてもいいんじゃないかな。Mが指令を出し、マニーペニーとちょっと絡んで、出かけ際にQから新兵器(たまに珍兵器)をもらうのが昔の007のスタイルだったわけだけれど、新時代の007は仲間たちの支えがあってもいいと思う。組織の在り方の変化というのも、今作のテーマになっていると思う。
そういう意味では007映画そのものが時代とどう付き合っていくかということも自問自答する作品だったと言えるかもしれない。スパイや「殺しのライセンス」といった、007のアイデンティティ自体が冷戦時代の遺物なのかもしれないが、英国が地上にあり続ける限り、これからもジェームズ・ボンド映画は作られ続けるのだと思うし、そう願うばかりだ。