もうこの本を読んで10年経つらしい。「10年前」というのを振り返れる年齢になったのも感慨深いのだけれど、この本を読んで翻訳特有の文体に魅了されて(しかも謎な固有名詞がばんばん飛び交うSFもの)自分でも創作の真似事などをするようになったので、そういう意味ではひとつのきっかけになる読書体験だったと言える。とにかくひとつひとつの出来事や動作が、すぐにはイメージしづらいまわりくどさで描かれているところが「かっこいい」と思った。実に中学二年生らしい感想なんだけれど、でもあながち的外れな感想ではなかったんじゃないかなと思ったりもする。そこで感じた「かっこよさ」とは文章表現の幅のことだったのだから。起きたことをありのままに書く、それもいいのだけれど、ちがうことに例えてちょっと回り道して説明する。あんまりくどいのも考えものだけれど(くどさが作家性になっている方ももちろんいます)、それが文章による表現というものだったのだなあと。つまりこの本は、「『スター・ウォーズ』を読む」楽しさのほかに、「文章表現」について教えてくれたというわけ。
実は当時、映画を観に行く前にこの本を読んでしまっていた。当然ノベライズ版のほうが描写が細く、映像では表現しきれない登場人物たちの思惑なども活字で描かれているので、ある意味映画よりもストーリーに関していろいろわかってしまう。そのため実際に映画を観たら物足りなさを感じてしまうという悲惨な結果が待っていた。一概には言えないけれど、ノベライズは映画を観たあとに読むに限ると思った(原作として小説がある映画はまた別だけれど)。映画にはなく小説にはある描写などは、映画を観た後に読むと補完されるところもあって楽しかろう。でも逆となると、小説にあったのに映画にはない描写ということになり結果的に物足りない気分になってしまうのだ。「あ、あれれ、あのシーンは無いの??」みたいな。ああ失敗失敗。
昨年の「フォースの覚醒」はどうだったかというと、ノベライズの発売は映画公開よりずっと後になった。というかこの4月8日時点でまだ邦訳版は発売に至っていない。さすがに遅すぎませんか……。なので映画で少し説明の欠けていた部分が活字で補完できると思うと読むのが楽しみ。
「シスの復讐」の物語はアナキン・スカイウォーカーの心の葛藤が軸になっている。この小説版もそれは同じで、ましてや「心の葛藤」を描くのに活字はもってこいなので、映画よりも一層アナキンの心がどのように揺れていたのかがよくわかる。葛藤していたのはアナキンだけではない。妻パドメ、師で親友のオビ=ワン、戦争を通じて姿を変えつつある共和国の未来を憂う人々(後の反乱軍の骨格となる人々だ)、ヨーダをはじめとするジェダイたち(彼らは長引く戦争で存在意義を見失いつつある)。銀河系が姿を変えようとしているときに、唯一苦悩していない人物がいるとすれば、すべての黒幕であるパルパティーン議長(後の皇帝)だろう。彼の邪悪な心理を伺い知れるのもまたこの本の魅力だと思う。