2019/03/24

『スパイダーマン:スパイダーバース』(2018)


 単独世界の「ユニバース」じゃなく、複数(平行)世界から成る「マルチバース」というのがとにかくいい。単一世界になるとどうしても小さな矛盾であるとか、物語の重複みたいなものが指摘されたりして窮屈さを感じるけれど、マルチバースだったら平気。演じる俳優が交代したり、作品自体がリブートされて仕切り直されたりすると、いちいち前のものと整合性、連続性が気にされたり、無かったことにされた、みたいに騒ぐノリもあまり好きではないので(作り手は前のを無かったことにするなんて一言も言ってない)、そういう意味でも全ての世界線を包括するマルチバースは楽しい。ここではトビー・マグワイアもアンドリュー・ガーフィールドもトム・ホランドも同時に存在していて、互いに全く矛盾しない。日本の特撮でやったスパイダーマンだって存在する世界だ(実際に「スパイダーバース」のコミックでは日本版にも言及があるらしい)。世界は広い。

 コミック的な映像は強烈で、ぼくは3DIMAXで観たこともあって、まるでコミックの中にいるようだった。確かにぼくはコミックの中にいた。漫画表現みたいなものの良さも改めて思い知った。吹き出しの文字ってこんなにかわいいものなんだ。2Dのようで3Dなキャラクターからも目が離せない。絵なのか、CGなのか、トゥーンレンダリングなのか、もはや呼び方がわからない。ただひとつ言えるのはアニメーションで、生きたコミックだということ。

 どのスパイダーマンも自分が世界で唯一のスパイダーマンだと思っていたけれど、平行世界から集合してそうじゃないことを知る。スパイダーマンはそりゃそうそういるもんじゃないけれど、似たようなことは誰でも感じるんじゃないかな。こんな人間は自分だけだと思っていたら、同じようなひとが他にもいたなんてこと。まあ、そんなところに落ち着かせるには大きすぎる作品だけれど、スパイダーマンは超人でもお金持ちでもない、誰でも共感できる「親愛なる隣人」ということで。ひとりじゃなかったんだ、ていう気持ちはやっぱりうれしい。