2018/09/28

皇帝がデス・スターにこだわった理由

 かの偉大なる銀河皇帝パルパティーンがこだわったバカでかい灰色のボールは、そもそもなんのために造られたのか。いくら万雷の拍手で認められた皇帝と言えど、広大な銀河に散らばる無数の惑星を元老院抜きで統治する(おさえつける)のは至難の技だった。たとえ直接操れる総督たちを各惑星に置いているとしても、元老院を黙らせておかなければ、ただでさえ反乱分子があちこちにいるので内乱が本格化する恐れがある(実際激化したわけだが)。今度戦いが起これば、それはクローン大戦のような途方もない内乱であると同時に、クローン大戦とは違ってシスがコントロールできる戦争ではない、本物の戦争になる。それに帝国元老院は名前を変えただけで結局中身は共和国元老院と変わらず、共和国晩年の堕落ぶりは健在だった。そういうわけで、共和国の代名詞とも言うべき元老院が残っている限りは、まだまだ皇帝の支配は完全ではない。彼の思い描く新生シス帝国にそんなものは必要ないのだ。

 ということで各惑星を一様に沈黙させられる究極兵器にして最終兵器が必要だった。それがデス・スターというわけだ。一撃で惑星を宙図から消し去ってしまうその火力は、たとえそこにかかる資金や資材を使って増強した艦隊でも敵うものではない。艦隊も強力なことには変わりないが、皇帝にとってはそれもまた脅威だった。配下であるはずの提督たちがいつ自分に歯向かうか知れたものではないから、彼らに対抗できる力を個人的に持っておきたかったんじゃないかな。皇帝は誰も信用しない。信じるのは自分の計画と力だけ。だからこそ同じような役職や地位をたくさん用意して、高官たちの競争を煽って不満の矛先が自分に向かわないように常に気を配っていたという。狡猾であると同時に悲しい老人でもある。そもそも彼がシス・マスターになれたのも、由緒正しいシスの手順に従って自分の師を殺したからだ。疑いや裏切りがシスの道なんだよ。

 謀反と言えば、皇帝は最初のデス・スターを野心的で狡猾な人物、ウィルハフ・ターキン総督に任せていた。ターキンのような冷酷な男であればこの恐るべき兵器をうまく監督することだろう。力を持ち過ぎた彼はいずれ自分に歯向かうかもしれないが、だからこそ皇帝は密使ダース・ヴェイダーを送り込み、暗黒卿がつねに総督の傍らについた。ヴェイダーはエリアドゥ出身のグランド・モフにおとなしく仕えている振りをしながらも、彼が妙な真似を起こさないように監視していたんだな。同じような目的で保安局のスタッフたちもデス・スターに乗り込んでいた。EP4の会議室のシーンで確認できる白い制服を着たヒゲの男、ウルフ・ユラーレンがその代表である。彼らは味方の間で皇帝への忠誠心が正しく保たれているかを見張っていたわけだが、その監視対象にはもちろんデス・スターによって皇帝に匹敵するほどの力を持ち始めているターキンも含まれていたはずだ。

 結局、反乱同盟軍の力を見くびった司令部のせいで初代デス・スターは吹き飛んだ。木っ端微塵に。ターキンをはじめ多くの高官たちが死に、有能な人材も多く失われた。ターキンのくだらないプライドは、小さな排熱ダクトと同じくらい重大な敗因だった。そんなわけで、第二デス・スターを造るときにはグランド・モフのような高い位でもなければ、ターキンのように頭が切れる野心家でもない、平凡で扱いやすい男が司令官に選ばれた。ジャジャーロッドである。その大抜擢により佐官でありながらモフの称号を得た彼は、恐ろしいシスの師弟からのプレッシャーと大幅に遅れた建設スケジュール表に日々悩まされることになる。

 扱いやすい男を司令官に任命した皇帝は、完成間近になった第二デス・スターに自ら乗り込み、司令官の背後から命令を出すことにする。なぜなら初代デス・スターのように他人に任せて、自分はコルサントの宮殿でどっかり玉座に座っているなんてことでは、その超兵器がいつ自分の頭上にやってくるか知れたことではないからだ。ジャジャーロッドと言えど自分が持った大きすぎる力を自覚し、いつ「その気」になってしまうかわからない。扱いやすいやつでも信頼はできない。だから自分で乗り込んでコントロールする必要があった。エンドアの戦いというのは皇帝が同盟軍を誘き出して罠にはめることで起こさせたわけだが、最終的に同盟軍の中隊はデス・スターのコアまで入り込み、メイン・リアクターを破壊するので(フォースとかスカイウォーカー親子とは関係ないところで)、結局のところデス・スターにいたのは誤算だったんだな。もちろん初期の構想通り、皇帝がコルサントの宮殿にいたとしても(そもそもこの草稿にはデス・スター自体出てこなかったような気がするが、まあいい)、ヴェイダーがルークをそこに連れて行って一連の戦いが起きるなら、やはり彼は弟子に裏切れて死ぬだろう。そして彼の一番の誤算は、かつて自分が殺した師と同様、弟子の裏切りを察知できなかったことだ。完全な支配の完成、シスの偉大なる計画の成就を前に目が眩んだ(酔っ払っていた)ダース・プレイガスと同じく、ダース・シディアスは無我夢中でビリビリやっているうちに弟子に殺されるのでした。ていうか、一番の誤算はプレイガスの弟子になってシス卿になったことだろ。

 恐怖政治のための兵器としてはそんな感じだろう。さて、デス・スターにはもうひとつの側面があった。ダークサイドの秘技の代替としての兵器である。シディアスの師プレイガスは、ミディ=クロリアンに働きかけて生命の創造に取り組んでいたわけだが、ダークサイドの道を極めれば、惑星の生死さえ操れたという。地上に生きる生命体から命を奪うことも、宇宙を取り巻くフォースによって惑星そのものを破壊することも。なるほど宇宙と万物を結びつけるエネルギーとしてのフォース、究極的なところではそんなこともできるのかもしれない。プレイガスは半ばそのレベルに到達していたようだが、哀れな弟子にはその知識は受け継がれなかった。シディアスが師に疑いを抱いていたのは、全てを教えてはくれなかったせいでもあるようだ。いずれにせよシディアスは惑星を破壊するほどの力を得ることはできなかったし、生き物の生死を操ることもできなかった。せいぜい両手の指先から電撃を出すくらいのレベルってわけさ。デス・スターのような兵器にこだわったのは、到達できなかったダークサイドの力の代わりだったからなんだな。EP4でヴェイダーが高官たちに向かって言った「テクノロジーによる恐怖を過信するな。惑星を破壊できる力とてフォースの前では取るに足らん」というのは、そのことを知った上での言葉だったかもしれない。ダークサイドのフォースを信奉するヴェイダーは、マスターがそういう手段を取ることに反感を覚えていたわけだ。弟子になったときに聞かされた賢者プレイガスの偉業に(ほとんどそれを聞いたからこそヴェイダーはシスになったとさえ言える)、自分のマスターは全く到達できていないのだと、幻滅さえしていたんじゃないかな。

 というわけで、皇帝の野望、シスの計画を具現化したデス・スターはシリーズ全体に渡るひとつのテーマでもあるが、エピソード9にスターキラー2とかが出てきたらさすがのぼくもキレそう。