2018/10/15

『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』が楽しい理由


 まずハロウィンとクリスマスを接触させたところ。こんな発明はほかにない。ハロウィンがクリスマスの明るさに憧れて、真似をするというアイデアが素晴らしい。しかもそれがストップモーション・アニメでミュージカル仕立て。ハロウィンの住人たちの唯一無二の造形は人形でなければ出ない存在感だし、クリスマス世界のおもちゃ感も際立ってくる。二つの異なる世界の対比も見ていて飽きない。

 久しぶりに観て改めて感動したのは、やはり冒頭のハロウィン・タウンのパレード。カボチャ頭のカカシが通り過ぎたあとに現れる暮石と、そこに映り込むお化けのシルエット。しかも歌ってる。初めて観たときはこの暮石の質感にびっくりしたものだ。人形とお化けが大好きな子供の心を掴まないわけがない。この冒頭のテーマのなにがいいって、これだけでハロウィン・タウンの世界観及び登場人物たちの紹介が済んでしまうところだろう。どんな場所で、どんな連中が、どんな価値観で暮らしているのかがすんなり入ってくる。余計な説明なしにストーリーテリングができるのはミュージカルの利点だけれど、このハロウィンのテーマは大成功だ。子どもにとってはちょっと情報量が多いところもいい。本当に画面の中でいろんなやつがいろんな動きをしていて目を見張る。だから何度観ても飽きない。しかも愉快な音楽。最高。次から次へとキャラクターが登場して自己紹介をしていくわけだが(悪役であるウギー・ブギーまでちゃんと自己紹介しているのが可笑しい)、町の中を進んでいくカメラワークはまるでディズニーランドのアトラクションのようでもある。あれを観ているときの妙な高揚感は、そこにあるのではないだろうか。バートン版ホーンテッド・マンションに迷い込んだかのような感覚。今じゃこの作品がホーンテッド・マンションとコラボしているのだからおもしろい。とにかくそういう、仕掛け絵本的な細かさとインパクト、アトラクション的興奮がある。

 クリスマスをテーマにしながらも、宗教的な要素が全然ないところも大きい。もちろん宗教色があったらダメとか、そういうことではない。ただ、あそこで描かれているクリスマスというのは、日本人にとってのクリスマスにすごく近いのではないか。ツリー、リース、電飾、プレゼント、サンタ・クロース、スノーマン、楽しい、みたいな。それ以上奥へは踏み込まないし、意味付けもない。わかりやすいクリスマス。それが日本でもこの映画がここまで人気な理由ではないだろうか。クリスマス・ツリーなんていうのは本来キリスト教とは関係なくて、北欧の冬至のお祭りのものだったのが、ヴィクトリア女王の時代にイギリスに渡って来て今のようにクリスマスと合体したということだし、案外ぼくらが「本場」だと思っている国々でも、結構新しく再定義されているわけだ。だから、日本のクリスマスもやっぱりクリスマスには変わりないのだと思う。人形アニメの「赤鼻のトナカイ」とか、スース博士の「グリンチ」などに親しんできたバートンにとっても、クリスマスは宗教的なものというよりも、「クリスマス」そのものだったんじゃないかなあと思う。そういう意味で、バートンはチャールズ・ディケンズに次いでクリスマスを定義したことになるのかもしれない。クリスマスに魅せられた骸骨のジャックは、必死にそれを研究して、ああでもないこうでもない、一体クリスマスとはなんぞや、とつるつるの頭を抱えるわけだけど、最終的に、まあいいや、自分なりに解釈して楽しもう!とお馴染みの謎ポジティブさで吹っ切れる。まさにその感覚だ。起源や意味はよくわからないけれど、楽しいからやるのだ。電飾が綺麗だから、プレゼントがうれしいから、サンタが素敵だから、デートの口実になるから、ケーキが美味しいから、なんとなく暖かいから、だからクリスマスを祝うのだ(もちろん敬虔なひとが祝うクリスマスも尊いってことは、忘れちゃいけない)。「ユーリカ!」というジャックの叫びはストレートにぼくたちに響いてくる。この映画はクリスマスのローカライズに成功しているというわけだ。
 
 「ハリー・ポッター」がおもしろいのもそこのところだろうな。魔女狩りといったこちらの史実も少しは絡むんだけど、基本的に宗教観みたいなものとは無縁なところで魔法界が描かれている。でも、ハリーたちも普通にハロウィンやクリスマスを祝う。あそこで描かれるハロウィンやクリスマスもたぶん、『ナイトメアー〜』で描かれるそれと同じ感じだろう。そこのところが謎に思われる場合もあるんだけど、あんまり細かいことを気にせず楽しいモチーフを採用している感じが、「ハリー・ポッター」のわかりやすさじゃないかなあ。学校に幽霊がいるのもそうだし、なんなら幽霊たちもクリスマスを祝うしね。これもまた魔法世界のローカライズなんだと思う。

 ハロウィンがクリスマスに憧れて真似をする、というアイデアは、『ナイトメアー〜』の物語の成り立ちと直に繋がってくるようにも見える。バートンはきっと「グリンチ」みたいな話を書こうとしながら、自分なりのフェアリーテイルを作り上げた。出来上がったものは「グリンチ」に通じるところもありながら、でも全然違う、別個の作品となっている。バートンもやっぱりジャックみたいに「ユーリカ!」を得たのかなあなんて思う。憧れをオリジナルに変換できるていうのはやっぱりすごいことだ。ぼくもそれができるようになりたい。やっぱり子どもの頃に観た作品から学ぶことは多い。

 表題の答になっているかどうか微妙になってきたが、とりあえず久しぶりに観て思ったことのメモ。今後観返すたびにまた思うところもあるだろう。好きな作品については何度でもいくらでも書いてみたい。書き忘れたが最初の写真はフランフランから出た『ナイトメアー〜』のクリスマスツリー。インターネットで見た感じよりは少しチープな印象もあるけれど、トップにゼロがいたり、オーナメントの色がよかったり、なにより今までありそうでなかったツリーだから、すごくうれしい。広い家に移ってきて、大きいツリーを飾れるようになったのも幸福な感じがする。なによりこのツリー、ハロウィンツリーも兼ねて今から飾れるのがいい。10月から12月まで飾りっぱなしだぜ。