2018/12/22

『A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー』(2017)


 遺してしまった妻を日々見守る夫の幽霊の物語、というわけでは全然ないのがおもしろいところ。妻を守ろうとかそういうわけでもなく、ただただ自分が死んだあとの日常を部屋の隅にひっそり佇んで見つめ続けるだけ。そうこうするうちに妻は身辺を整理して、夫と暮らした家から引っ越していってしまう。もちろん夫の幽霊は新居までついていくのだろう、と思ったらこれが家に残ったまま。ここからおや?となる。

 やがて新しい住人一家が越してくる。妻と暮らした家に知らない連中が住み着くのはおもしろくない。地下鉄の幽霊に教わらなくとも多少物に触れられるので、食器を割ったりしておどかして追い出す。するとまた別の連中がやってきて住み着く。またおどかす。気づくと家は空き家を通り越して廃墟になっている。しかし彼はまだそこにいる。彼は妻ではなく家に憑いているのだろうか?

 重機がやってきて家が取り壊された。気づくとそこは建設現場になっている。次に気づくと幽霊は家があった場所に建った高層ビルにいる。周囲はすっかり様変わりし、大都市が出来上がっている。なんとなくそこはずいぶん年月が経った未来の世界だということが伝わってくる。どれだけ時間が経とうとも家があった場所に彼はいる。妻でもなく、家でもなく、土地に取り憑いているのだろうか?彼 は気が滅入って(?)ビルから飛び降りる。シーツが落ちるだけなんだけど、とにかく飛び降りる。

 今度はあたりが平原になっている。かつて暮らしていた家の周りの風景に近いが、もっとなにもない。馬車がごろごろやってきて、開拓者の一家が降りてくる。ほとんど野宿みたいな生活をしながら、父親が言う。ここに家を建てよう。しかし次の瞬間には身体中に矢が刺さった状態で一家が地面に倒れている。荷物はめちゃめちゃ。先住民の襲撃にあったのだろう。幽霊は小さな女の子の死体を見下ろす。一瞬で彼女は骸骨になり、それが崩れて地面に還る。幽霊は時間をも越えてこの土地に憑いたのだ。そして彼にとってはあらゆる事象が一瞬のうちに、同時に起こっているのだ。

 やがてそこに家が建ち、夫婦が越してくる。かつての自分たちである……。

 時を越えて同じ場所に居続ける幽霊像、その途方の無さがおもしろい。それがシーツのお化けという究極的に単純でアイコニックな幽霊によって描かれるのが最高。かわいさや可笑しさを感じさせるその姿が画面にいるだけでただならぬ雰囲気が出るし、そのシンプルな姿はときに哀愁を、ときに怒りや恐怖を感じさせるようになる。目穴が二つ空いてるだけなのに、表情が出てくる。いや、表情を考えさせられる。シーツのお化けがここまで偉大とは思わなかった。単純ゆえにインパクトがすごい。

 夫婦の生活や、遺された妻の日常も、じーっと見ていられる。妻のルーニー・マーラが、夫の死の直後に差し入れでもらったパイを黙々ともぐもぐ食べ続けるところなんか、思わず凝視する。どかどかと食べる勢いから、悲しいのか苛立っているのか怒っているのかと想像する。そしてその全部が伝わってくる。言葉が無くても場面を理解しようとじっと観察する感覚は絵本を眺めているときに近い。グラフィック・ノベル的とも言える。そしてシーツのお化けのヴィジュアルはそういう雰囲気とも合っているし、それを際立たせる。ぼくももっと白くて目がちょこんとついただけの幽霊を描きたい。